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2011年12月1日(木)

『狼煙を見よ』松下竜一著(社会思想社)読了。

先日、『別れの時まで』という本を読んだことを書いた。
この本の巻末に、松下竜一著『狼煙を見よ』という本が
参考にされていたとして記されている。

『別れの時まで』は、出版元である小学館は
“恋愛小説”として売りたかったようだ。
キャッチコピーは、
「「水曜の朝、午前三時」著者の長編恋愛小説」とある。

しかし物語の背景にあるものの大きさを考えると、
この小説を純粋に恋愛小説として扱うのは難しく、
それによってまた後味(読後感)も非常に苦味がある。
そしてその苦味がまた後を引く。

*     *     *

背景にあるものというのは、
1974年に起きた「三菱重工ビル爆破事件」である。
そして『狼煙を見よ』は、事件の犯行グループである、
<東アジア反日武装戦線>というグループのメンバーたちを描いた
ノンフィクションだった。

1974年というと自分は15歳、まだ中学生だが、
その頃は学生運動・大学紛争のピークであった時代で、
通っていた中学校の近くに日大があったので騒ぎも身近なことだったし、
この事件自体もニュースで見たことは記憶している。

逮捕・収監された犯人の一人大道寺将司が、
拘置所内で読んだ『豆腐屋の四季』という本に感銘を受け、
その著者である松下竜一に手紙を書く。
そこからのつながりがきっかけとなって、
この『狼煙を見よ』が書かれるようになる。

ほぼ同年代として生きた著者と犯人たちが、
直接に取材を通じて交流した中から書かれたものであるだけに、
生々しい描写であることは勿論なのだが、
著者が犯人たちに向き合う姿勢は、
ライターと取材対象という関係以上に親密な雰囲気がある。

多くの死傷者を出した爆弾事件を考えると、
著者の姿勢に多少の違和感は感じるのだが、
それが異常なことだというほどの感覚はない。
少なくともどんな人間たちが、何を考え、
何を目的として行動した事件だったのか、
ということは知ることができて良かったと思える。

*     *     *

爆破犯人たちは、事件の翌年、一斉に逮捕されている。
長い裁判が行われ、1987年には主犯の者たちには
死刑判決が確定しているのだが、実はまだ執行はされていない。

裁判の間にあった、日本赤軍のハイジャック事件の要求により、
超法規的措置という扱いでメンバーが開放され、国外へ脱出、
現在も逃亡中であるため、
いずれ捕えられ裁判が行われることになった場合のために、
すでに死刑が確定している状態でも執行が出来ないのだという。
大道寺将司の妻あや子は現在も逃亡中である。

恐らくは逃亡している仲間も、そのことを理解しているだろう。
自分が逃亡している間は、囚われている仲間の死刑も執行されないことを。

*     *     *

1975年に捕えられた犯人たちは、すでに35年以上服役している。
年齢も60歳を越え、主犯であった大道寺将司は多発性骨髄腫だという。

この本を読むと、今さらながら時間の経過、
そしてその間の社会の変化を感じないわけにはいかなかった。

大学に入るか入らないかという年齢から、
社会の有り様、矛盾、不条理といったものに目を向け、
自分の力でそれを変えようと試みたということ。
獄中から支援者などに宛てた便りなどを読むと、
どれほどの年月が経っていても、
その思想信条・信念には揺らぐものがないし、
それどころか逆に、取り調べや裁判に向かう中で、
その気持ちが純化されより強いものになっていくのが判る。

今の時代、これからの時代、
これほどの強さを持って、社会というものに向き合えるだろうか。

そう考えたときにまた、最初に読んだ『別れの時まで』の物語を思った。
読後感として味わう「苦味」が、もう一度別な形で感じられるように思う。

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